朝日新聞 2000年5月29日付朝刊東京本社発行12N版より転載。
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 育児を母親だけが担うのではなく、家族や地域で支える。そんなカナダの子育て支援リポートが出版された。著者は北海道・名寄短大教授だった小出まみさん。がんと闘いながらカナダに通い続け、出版直前五十九才で亡くなった。本は孤立した子育てに悩む親に共感を呼び、三ヶ月で版を重ねた。「日本でもできるはず」と活動に踏み出す先輩ママも出てきている。

 この本は「地域から生まれる支えあえの子育て」。
 保育を研究する小出さんは十四年前、カナダを訪問。子育てを家庭ごと支える活動の広がりに目を見張った。乳がんがわかった翌年だった。
「日本で広がる孤立無援の子育てや育児不安は現代の宿命ではない」と感じた小出さんはさらに六回、あるときは退院の八日後、あるときは手術を延ばしてカナダに渡り、つえや車いすで取材を続けた。症状が悪化すると、教え子が口述筆記を担当し、原稿は昨年十月完成した。十日後、小出さんは亡くなり、本は十一月、出版された。

 本は「楽しいはずの子育ては日本ではなぜ苦役なのか」から出発し、カナダの活動を報告する。親向けの小冊子が「親の役割からの息抜きを」と呼びかけ、ほとんどの中高年がベビーシッターを体験するカナダを「助けて!と言いやすいやさしい社会」と表現。親が子連れで立ち寄り、スタッフとおしゃべりできるたまり場が、草の根で増えている姿を伝える。


 この本から自分たちもと踏み出した団体もある。親子の観劇、キャンプなどの体験活動や居場所づくりを支える非営利組織(NPO)法人「子ども劇場全国センター」(事務局・東京)。各地の「劇場」に呼びかけて「せわやきおばさん養成講座」を三月に開催。百人以上が出席し、先輩ママとして若い親をどう支えるかを考えた。「密室育児も含めてお母さんの心細さを感じながら親子を支える社会的なシステムをどうつくれるか模索していたところだった。本を読み、これだを思った」と福田房枝事務局長。四月から五月には二十人がカナダを視察した。


 小出さん自身、研究しながら三人の子を育てた。死の直前、思い出の品を集めた袋に、フランク・シナトラが「私は私のやり方で人生を生き抜いた」と歌う「マイ・ウェイ」の歌詞を入れていた。「本は彼女の人生のメッセージ。今度は私たちが息を吹き込む番」と三十年来の友人の札幌市の矢島満子・幌北ゆりかご保育園長が話している。
 本の問い合わせは「ひとなる書房」(電話03・3811・1372)。